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「いいな、いよいよ明日だぞ」
現在、9月23日夜。祐一の部屋にいるのは祐一、名雪、真琴の3人。

「うん、わかってるよ」
いつになく真剣な顔で頷く名雪。

「秋子さんの誕生日ね」
はしゃぐ真琴。

「大きな声を出すな真琴。秋子さんに聞こえたらどうする?」
「あうーっ・・・ごめん」
「こういう事は内緒でするから意味があるんだよ、真琴」
「うん。いよいよ明日かあ・・・。秋子さん、喜んでくれるかな?」
「決まってるだろ、真琴。顔には出ないだろうけど、絶対喜んでくれるさ」
ぽむ、と真琴の頭に手を置いて祐一が言う。

「うん。そうだよね、秋子さんきっと喜んでくれるよね!」
喜びのあまりまた声が大きくなる。

「真琴、お母さんに聞こえるかもしれないから大きな声出しちゃだめだよ」
すっかりお姉さんだな、と他人事のように思う祐一。
自分もお兄さんになっていることには気付いていない。

「とにかく」
パン、と手を叩く。

「明日に備えて、今日はもう寝よう」
「おやすみ、祐一」
「おやすみーっ」

バタン、と部屋のドアが閉まり、部屋の中は祐一1人になる。
「俺ももう寝るか・・・」

「秋子さん、ちょっと出かけてきます。昼食は要りませんから」
9月23日。祐一は朝食を食べた後、秋子にそう言った。

「晩御飯までには帰ってくるのよ」
「はい」

「秋子さん、遊びに行って来るね。晩御飯までには帰って来るから」
「あら、真琴も?」
今度は入れ替わりに真琴が入ってきて言う。秋子の反応に、真琴は冷静に言葉を返す。
「真琴もってどういう事?」
「さっき祐一さんも昼ごはんは要らないって行って出て行ったのよ」
「そうなんだ・・・とにかく、出掛けて来るからねっ!」
「いってらっしゃい」

祐一に続いて真琴も家を出て行く。自分たちではうまくごまかせているつもりでも、この家主だけはごまかせないようだ。
「何かあるわね・・・」
1人、そう呟いていた。

まだ推測に過ぎなかったその思いは、既に着替えている自分の娘の登場によって確信に変わる。
「おはようございます」
「珍しいわね、名雪が1人でこんな時間に起きるなんて」

かなりすっきり目覚めているようね。今日は何かあったかしら?
そんなことを考えていると、見透かしたように名雪が言う。

「お誕生日おめでとう、お母さん」
「・・・誕生日?」
「すっかり忘れてたでしょ?お母さん」

・・・忘れてたわね。そういえば。
自分がまったく覚えていない誕生日を名雪が覚えていることに少し驚く。

「だから、今日は祐一と真琴に無理言って外に出てもらったんだよ」
「どうせなら、みんなで過ごせばいいのに」
「たまにはお母さんに思いっきり甘えたい時だってあるの」
「そうなの?うれしいわね」
「だから、今日は1日、お母さんとデートだよ」

そう言って出掛ける事を促す。
「だからね、早く行こっ!」
「はいはい」
こうして秋子の誕生日はバタバタと始まる。

一方そのころ、外に出て行った祐一と真琴はすぐに合流し、ある場所を目指していた。
「名雪のやつ上手くやってるかな・・・」
「大丈夫よ、きっと。それに人の心配してる場合じゃないでしょ」
「・・・相方がお前じゃなけりゃもうちょっと余裕もあるってもんだけどな」
「ひどーい!それは真琴のセリフーっ!」

ギャーギャー騒ぎながら2人で歩いていく。着いた所は・・・
「こんな所に来るのは久しぶりだな」
「Hなビデオ借りる店?」
ポカッ!
「イターイ!無言で殴ることないでしょー!」
「こんな時にボケるお前が悪いんだ」
「覚えてなさいよ祐一、いつか必ずギャフンと言わせてやるんだから」
「どうでもいいからさっさと行くぞ」
「良くなーいっ!」

2人が着いた先は近所のスーパー。今日の晩御飯の材料を買いに来たのだ。
「祐一、メモは?」
「ああ、ちゃんと持ってるよ」
祐一と真琴では心配すぎてたまらなかった名雪がレシピを書いてくれた。
「これが無かったらどうなってたんだろうな、俺達・・・」
しみじみと言う。
「祐一が何にもできないせいね」
しれっととんでもないことを言う。
「ぐっ・・・」
だが事実なので何も言い返せない。
「(覚えてろよ、この野郎)」
そう思う祐一であった。

「すいません、注文していた水瀬ですが」
「水瀬様ですね?少々お待ちください」
「あら、わざわざ注文してたの?」
「私がデザインした服を作ってもらったんだ。世界で1つだけの服だよ」
「それは楽しみね」
ここはデパートの洋服売り場。名雪が注文していた服を取りに来ていた。
「お待たせしました、こちらになります」
「ありがとうございます」

袋をうけとった名雪は、笑顔で言った。
「ね、お母さん、開けてみて」
その言葉に少し苦笑しながら秋子は言った。
「ここで?少し恥ずかしいんじゃないかしら?」
「あっ・・・」
秋子の言葉に、名雪は真っ赤になる。
「えっと・・・お昼食べに行こうか?」
「少し早いけど、そうしましょうか」
そこでこの袋を開ければいいわね、と付け加える。
「うんっ」

「よしっ、始めるか」
「そうね」
名雪特性レシピを基に、2人は普段は秋子の任せきりの料理を始める。
「まずは、えーと・・・。手を良く洗い、食器を熱湯消毒してください、だとよ」
「手を洗って、お湯を沸かせばいいのね」
2人で手を洗い、沸かしたお湯で消毒をする。
「次は?」
「んーと・・・」

割とスムーズに作業が進行していく。もともと名雪レシピにはそう難しい技術を必要とする料理は記載されていないので、誰にでも出来ると言っても過言ではないが。
「もうすぐだな」
「後はこのハンバーグを焼くだけね」
うまくいったからだろう、ニコニコ顔の真琴。
「今何時だっけ?」
そういって時計に目をやる。
「4時30分か・・・。少し早くから作りすぎね」
「名雪レシピによると、『私達が帰ってくるまでに皿以外は片付けておいてね』だそうだから、先に片付けられるものは片付けるか」
「そうね。ところで、何を片付ければいいの?」
こいつ、本気で言ってんのか?祐一は思わずそう思ってしまう。
「・・・包丁とかボウルとかだ」
「さ・・・最初からわかってたわよう」
絶対に分かってなかった女、真琴。
「さっさと終わらせるぞ、真琴」
「うん」

「ねえ、お母さん」
「どうしたの?」
帰宅途中の名雪と秋子。どう見ても不自然な秋子に、名雪は尋ねずにはいられなかった。
「私のプレゼントを着てくれるのはうれしいんだけど・・・暑くない?」
「暑いわよ」
そりゃ暑いだろう。名雪が秋子に送ったのはセーターであり、セーターは初秋に着るものではない。いくらなんでも、セーターにはまだ早い。
「でもね、どうしても着たくなったのよ」
「そっか」
やや遠まわしな秋子の言葉。その中の自分への感謝の気持ちを十分に掬い取った名雪は、ただ一言、そう返す。
「家に帰ったら私達3人からのプレゼントもあるから楽しみにしててね」
「ええ、楽しみにしてるわ」

「ただいま〜」
玄関から聞こえる名雪の声に、2人はそろって顔を出す。
「楽しんできたか?」
「うん、とっても楽しかったよ」
満足気な笑顔をうかべる名雪。
「でも・・・」
「うん?」
「今からが今日のメインだよ」
とびっきりの笑顔で言う。
「あら、まだ何かあるの?」
何も知らない秋子が口を挟む。
「真琴と祐一で晩御飯作ったのよぅっ!」
「がんばったわね」
「そう!だからね、お腹空いちゃった」
「じゃあ、早速晩御飯にしましょうか」
そう言って、家の中に入って行く秋子と真琴。

その姿を見送った後で、名雪は祐一に言った。
「うまく出来た?」
「人の事信用してないのか?」
「そんな訳じゃないけど・・・心配だったんだよ」
「・・・百聞は一見に如かずってヤツだ」
そう言ってさっさと奥に行ってしまう。
「よっぽど自信があるのかな?それとも」
期待と不安を胸に、名雪も奥へ入っていった。

「どう?秋子さん」
「うまく出来たわね、とても美味しそうよ」
「あ、美味しそうだね〜」
上々の反応を示す2人。そうなると早く食べてもらいたいのが人情と言うものだ。
「ね、早く食べてみて」
「そんなに急かさなくたっていいだろ?秋子さん帰ってきたばかりなんだから。少し落ち着けよ」
「あうーっ・・・」
「まあまあ、今日のところは許してあげてください」
「秋子さんがそう言うのなら俺の言うことは何もないですよ」

祐一の言葉をやんわりと制する秋子さん。名雪に1日引っ張り回されて疲れていないはずがないのだが、そんな事は微塵も感じさせない。

「じゃあ、いただきましょうか」
「「「いただきまーす」」」
秋子の言葉に、箸を取る3人。だが・・・

「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
箸を持ったまま秋子の方を見つめる3人。それを見て、自分が何を求められているのかを悟る。
「じゃあ、このハンバーグからいただこうかしら」
一口大に切り、口に運ぶ。
「どうかな?」
緊張気味に尋ねる真琴。

このソースは私が作った物のようね。結構自信作のつもりだったんだけど・・・こんなソースが必要ないくらい・・・
「とっても美味しいわよ」
そう、答えた。

途端、パッと花が咲いたような笑顔を見せる真琴。それを見ていた祐一と名雪は、思わず表情が緩む。
「俺達も食べるか」
「そうだね」
それから、4人でのささやかなパーティは進んでいく。料理がなくなっても、楽しげな会話はいつまでも続いていく。

「私、眠い・・・」
その名雪の言葉は、パーティーの終わりを意味する。
「もう10時か・・・名雪にしては良く頑張った方だな。でも、もうちょっと頑張れるよな?」
「うん」
そう言って立ち上がる祐一と名雪。それを見て真琴も立ち上がる。
「どうしたの?」
「秋子さんの誕生日プレゼントを取りに行くの」
「そう」

すぐに戻ってきた3人は、それぞれ1つ包みを持っていた。
名雪が持ってるのが『3人からのプレゼント』かしら?
ふとそう思う秋子。その鋭さは天下一品である。さすがに中身までは分からないが・・・

「これ、俺からの気持ちです」
「はい、秋子さん、プレゼント」
「ありがとう、2人とも。大切にするわね」
「お母さん、これは私たち3人からのプレゼントなんだけど、その前に・・・」
包みを秋子に渡さずテーブルにおいて、名雪が言う。
「写真撮ろうよ、お母さん」
「写真?」
すでに祐一はカメラを構え、真琴は秋子の横に並んでいる。

・・・すべて計画通り、というわけね。
おそらく何日も前から練られていたであろう計画に感心する。

「よし、じゃあ撮るぞ」
祐一は、カメラをテーブルの上に置き、そう言った。
「はい、チーズ!」
そう言って自分も並びに来る。

カシャッ!

「うまく撮れたかな?」
「すぐに分かるさ」
言葉どおり、すぐに写真が出てくる。
「あら、ポラロイドカメラだったのね」
「写真がすぐ出来ないと意味が無いからねーっ」
「意味が無い?」
のんびり聞く秋子に対して、しまったと言う顔をする真琴。

「ったく、口が軽いな、真琴」
半ば諦め気味に言う。
「こういうことだよ、お母さん」
そう言ってテーブルに置いた包みを開く名雪。中から取り出したものに写真を入れる。
「はい、お母さん。3人からのプレゼントだよ」
そう言って渡されたのは、今撮ったばかりの写真を入れた写真立て。『水瀬家一同』と言う文字が刻まれている。間違いなく特注だろう。

「・・・ありがとう」
秋子はただ一言、そう言った。感謝の気持ちを表すには、十分すぎるほどだった。

「ほら、並んで並んで」
「私も?」
「秋子さんはいいんですよ」
秋子の前に3人が並ぶ。そして・・・
「気を付け、礼っ!」
「「「これからも、よろしくお願いしますっ!」」」

「祐一、お風呂は?」
「ああ、すぐ入れるぞ」
「入ってすぐ寝るから後よろしくね」
「任せろ」
そう言って消えて行く名雪。

「ちょ、ちょっと、片付けはどうするのよ、片付けは!」
名雪をぼーっと見送っていた真琴が我に返って言う。
「決まってるだろ、俺達2人だ」
「はあ・・・やっぱりそうなるのね」
「手伝いましょうか?」
「今日は何にもしないでのんびりしてください」
「じゃあ部屋に戻ってますから、名雪があがったら教えてください」
少し残念そうに部屋を出て行く。
「さっさと終わらせるからサボっちゃダメよ、祐一」
「お前には言われたくないぞ」
こうして、パーティーは幕を閉じた。

バタン
秋子は自分の部屋に戻っていた。プレゼントを置き、ふう、と一息。
「・・・私もずいぶんと悪い意味で大人になっていたみたいね」
秋子の目からは、とめどなく涙があふれていた。
「あの子達の前で泣くことが出来ないなんて」
こんな私ですが、末永くよろしくお願いしますね。
私は、あなた達のことが本当に大好きですから・・・。
そして、写真立てから写真を取り出し、裏にこう書いた。
『自慢の、最愛の家族達』と――。

FIN