「えっと、この時計、今までありがとうな。返すよ、これ」
それだけ言うと、祐一は部屋に戻ってしまった。
どこかそわそわしていた祐一を不思議に思い、名雪は時計の再生ボタンを押した。
『…どうやら、ちゃんと聞いてくれてるみたいだな』
名雪の予感は当たっていた。何かを伝えるつもりらしい。
『俺、ずっと前から名雪に言いたかった事があるんだ。でもどうしても言えなくてさ』
「祐一…」
『しっかり聞いてくれよな?』
沈黙が続く。
名雪には、一秒が十秒にも一分にも感じられた。
やがて、大きく息を吸い込んだ祐一は――
『チャチャーンチャーン…チャチャーンチャーン…』
「どうしてロッキーなの祐一ぃ!」
内心告白を期待していた名雪は混乱して叫んだ。
『名雪、聞いてくれ。俺は…』
ロッキーの意味が分からないまま名雪はなんとか気を取り直し、時計を見つめた。
『ロッキーの大ファンなんだ!』
「……え」
『いやー、ずっと前から言いたかったんだけど、古い映画だし何か言い辛くてさ。でもやっぱり名曲だよな、ロッキーのテーマってさ。本当のタイトルはGonna』
再生はそこで止まった。凄まじい勢いで振り下ろされた手が祐一への拒絶を示していた。
「…祐一のバカ」
その日、美坂チームは崩壊した。