早朝の霧雨亭。家の中には、少女が、二人。
それ以外には誰もいない。誰一人として、いない。
「アリス。……しようぜ」
「ちょ、ちょっと魔理沙……本気なの?」
「今更そんなこと言うなよアリス。もう、我慢できない」
「な……!? 今何時だと思ってるのよ、少し落ち着きなさい……!」
「……アリス、分かるだろ? ぶるぶる震えてる。あと少しでも我慢したら、体がどうにかなってしまいそうだ」
「……まっ、たく。いつもいつも強引なんだからこの馬鹿魔砲使い」
「そう言うなって。お前じゃなきゃダメなんだ、私は」
「うん。分かってる」
「じゃあ、いくぞ」
「うん」
お互いにこくりと頷いて。二人は立ったまま、強く体を押し付けあった。
「……っ、魔理沙ぁ……! 強いわよ、強すぎる……!」
「そう言う、お前だって。手加減って言葉、知らないんじゃないのか……?」
「わっ、私は魔理沙に合わせてるだけよ! 魔理沙ばっかり強くしたら、私が、保たないんだから」
「……そう、だな。悪かったアリス、一人で突っ走って」
「うん、分かってくれたのなら、いいの。……んっ、はぁっ……!」
「なん、だ、もう息が上がってるんじゃないのか? ふぅ、だらしないな、アリ……くはっ……」
「何よ、魔理沙だって、人のこと、言えない癖に……! それより、はっ、もっと腕、絡めてよ」
「あ、ああ。すっかり、んはっ、忘れてた……。私が教えた、のにな」
「そうよ……ホント、弱いんだから。……んぅっ!? ちょ、魔理、急に、だめぇっ……!」
「半端にしても、私の震えは止まらないんだ……! もっと、もっと、熱さが、欲しい……!」
「分かってる、分かってるから、くぅぅ……! 待って、お願い、魔理沙ぁ……!」
少女の言葉は、少女の耳には届かない。
ただ、己の欲望に従うのみ。
観覧者も制止者もいないことは、二人にとって喜ばしいことなのだろうか?
「んっ、熱、熱い……! 私熱くなってきたよ、ねえ、魔理沙……!」
「はぁっ、はぁっ、そりゃあ、いいことだな……。私も、頑張ってる甲斐が、あるってもんだ」
「もっと……強く、する?」
「そう、だな」
求め始めた二人は、最早留まることは無い。
ブレーキは粉々に砕け散った。強く踏みつけられたアクセルは、もう少女たち自身にも戻せはしない。
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ……! 熱い、私熱いの……!」
「くうっ、んあっ、はあっ! 無理、するなよ、アリス……」
「何、言ってるのよ……自分の心配、したらどう?」
「はぁっ……はぁっ……! 確かに、そう、かもな」
部屋の温度が目に見えて上昇してゆく。
音も無い世界で、少女達だけが激しく、激しく昂ぶってゆく。
「魔理、沙……凄いわね。もう、べたべた」
「そう言う、お前だって……どろどろだぞ」
「ど、どろどろって……! 変な言い方しないでよ、馬鹿ぁ……」
「口ばっか動かしてちゃ、お前一人でくたばっちまうぜ? ほら、ほらっ!」
「あっ!? くっ、はっ、こっ、このぉっ……! お返しよ、魔理沙っ!」
「かはっ……! あっ、熱いっ、やっぱ、いいよな、アリス……!」
体中をぐちゃぐちゃにし、荒い荒い息を吐く。
少女たちの目は虚ろ。
強制的に止められる呼吸、尋常ではない温度と湿度。
それらが、少女たちの意識を削り取っているのだろう。
「ふぅぅ……はぁっ……! アリス、私――」
少女の足が、がくがくと震え始めていた。
限界が、近い。
「あくっ、あぁっ……うん、私も、もう」
つられるように、もう一人の少女の足も。
「じゃあ、仕上げと、いくか……?」
「そう、ね。思いっきり、いきましょ……!」
少女たちは今までで一番の力を込める。
それは全く同じタイミング。
少女たちがどれだけその行為に及んできたかを如実に物語っていた。
「っ…………! アリ、スッ……!」
「んぅぅ……! はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
「も、ダメだ。もう、もう、足が……」
「だい、じょうぶ。私も、限界、だから……!」
一際強く、弾き飛ばすように。
それが、トドメ。
「はぁぁぁぁ…………」
揃って脱力し、深い深い息をつく。
同時に、ちょっとした水溜りのようになっている床に座り込んだ。
「……ああ、こんな時間からシャワー浴びなきゃいけないじゃないの」
頬を上気させ、天井を見上げながら少女は呟く。
「生憎、うちには温泉しかないぜ。先、譲ってやるからゆっくり入ってこい」
同じく、もしくはそれ以上に上気した頬に手を当てながら、少女は言葉を返した。
「そっか、ここはそうだったわね。なら一緒でもいいんじゃないの?」
「あー、そうだな。二人くらいなら全然問題無い広さだぜ」
少女たちは立ち上がる。
互いが互いを支えあい、ふらつく足で脱衣所へと向かっていく。
「あーあ、服どろどろ。魔理沙が急に言い出すからよ」
「何だ、私のせいだって言いたいのか? ノリノリだったくせに」
ひひひ、と意地の悪い笑みを浮かべる。
少女はそれを楽しげに一瞥し、額を人差し指で軽く弾いた。
「今度やる時は服脱いでやってみても良いかもな。余計な洗濯しなくて済むし」
「あのね、魔理沙。それじゃただの変態よ」
「お? 何だ、着たままだったら大丈夫だなんて思ってたのか?」
「魔理沙、自分の立場忘れてるんじゃないの? 別に私はこんなことしなくてもいいんだから」
「冗談だ冗談。いつも感謝してる。それに私だってそんなことはしたくない」
脱衣所に到着、すぐに服を脱ぎ捨てる。
大量の汗を吸った服は、布とは思えない音を立てて床へと飛び込んだ。
「それにしても、アリスは本当に私とよくあうよな。身長とか、力とか」
「まあ、私は体力的にそんなに変わらないから。あんたと違って寒さには強いけどね」
「羨ましい限りだぜ。それより、アリス」
「どうしたの?」
「胸、綺麗だな」
まるで、宝物を見つけた子供のように目を輝かせる。
「触っていいか?」
「馬鹿なこと言ってると蹴り飛ばすわよ。あと二度と付き合ってあげない」
慌ててタオルで体を隠し、少女はそっぽを向いた。
「あー、悪い悪い。ほら、私の胸で良ければ触らせてやるぜ、だから機嫌直せって」
ふにゅ。
少女の手を掴み、自らの胸へと当てる。
確かな柔らかみが、少女の手から脳へと電撃のように伝わっていく。
「きゃあっ!? ちょ、何やらせるのよ!」
筋肉の力を総動員、突風のような速さで少女は手を引いた。
耳まで真っ赤に染まっているのは、先程までの行為とは関係あるまい。
「照れすぎなんだよアリスは。女同士、恥ずかしいことなんて無いだろ? だから触らせろ、むしろ触る」
「いっ、いい加減にしなさいよ、この馬鹿ーッ!」
すかんと、桶が気持ちのいい音を立てた。
少女たちが着ていた服は、背の部分だけがわずかにほつれていた。
無理も無い。主たちの足腰が言うことをきかなくなるまで押し競饅頭につき合わされていたのだから。
これは、寒さに強くない人間の少女と、ちょうど体格が似通っていて、おまけに仲も良い魔法使いの少女の日常の一コマ。
少年のように賑やかな少女と、令嬢のように純情な少女の、少々過激なスキンシップの一コマ。
後書き
というわけで、魔理沙とアリスの押し競饅頭でした。
最近めっきり寒くなってきましたが、押し競饅頭は真冬でも速攻で体が温まる最終兵器。足が動かなくなるまでやるとどろどろになること請け合い。
タイマンの押し競饅頭は本気で呼吸が厳しいです。体格が違うと潰されて大変なことになります。
お題を曲解して頑張ってみた。
内容に関してはノーコメント。