犯人がどこにいるか分からない?

ならば、見つければいい。

言うことを聞いてくれるとは思えない?

ならば、力尽くで聞かせればいい。

人を探すには、夜は短すぎる?

ならば――






「……で、どうするつもりなのよ」

 ほんの少し欠けた月の下を飛ぶ少女は、隣を飛ぶ妖怪に声をかけた。
 少女の名前は博麗霊夢。少々奇抜な紅白の衣装を身に纏う、神社の巫女である。

「だから言ったでしょ? 満月を取り返すのよ」
「そうじゃなくて。私を何処に連れて行こうっていうの? 突然押し掛けて来て、目的地も知らないなんて言ったら――」
「知らないわ」
「なっ……! ちょっと紫、あんたふざけてるの? 適当に彷徨ってたんじゃすぐに夜が明けて終わりよ」
「それもそうね……なら、ちょっと夜を長くしてやればいいだけのこと」

 言うなり、妖怪から凄まじい妖気が弾けた。
 辺りに変化は一切無い。妖怪が干渉したのは物質ではなく、夜そのものなのだから。

「さ、行くわよ。私の力だって無限じゃないんだから、ぐずぐずしてると夜が明けてしまうわ」
「……本当になんでもありなのね」

 幻想の境に住む巫女と妖怪。
 二人は、夜を狂わす。





 高速で空を飛ぶ少女、霧雨魔理沙はほくほく顔であった。
 それというのも、知り合いの人形遣いが恐ろしく珍しい魔道書を複数持ってきたからである。
 絶対に返すようにと何度も念を押されたものの、返すつもりなど毛頭無い。

「ちょっと魔理沙! あなた無駄に速すぎなのよ、少しスピードを落としなさい」

 後ろからの声に、少女はやれやれと呟きながら速度を落とす。

「この妖気の先にきっと犯人がいるはず。とはいえ妖気を辿っていくのには時間がかかるから――魔理沙、ちょっと手を貸しなさい」
「何だよ偉そうに――っておい」

 有無を言う間もなく手を取られ、そこから魔力を吸収される。文句を言おうと口を開きかけた刹那、夜が一瞬だけ昼よりも明るい金色で覆いつくされた。
 その光は溢れんばかりのパワーと計算しつくされた緻密さを持ち合わせていて。少女はほぅ、と感嘆の声をあげた。

「私一人の力じゃ少し心許ないから、あなたの魔力を少し使わせてもらったわ。まだまだ余裕でしょ、無駄にぶっ飛ばす魔砲使いなんだから」
「おーおー、言ってくれるね七色魔法莫迦が。一個貸しだからな」

 魔法の森に住む魔砲使いと人形遣い。
 二人は、夜を破壊する。





「……はぁ」

 メイド服が風に煽られ、バタバタとせわしなく騒ぐ。その音を少し鬱陶しく思いながら、十六夜咲夜はそっとため息をついた。
 原因は目の前を飛ぶ彼女の主。どうにもやる気に満ち溢れていて、ちょっと動いたら帰るどころか夜が明けても帰りそうにない。

「咲夜、付いて来るならもう少しキビキビ飛びなさい。夜は少ししか待ってくれないわ」

 今夜の主は、少し饒舌らしい。彼女が気を回して密かに行っていることを口に出すなど、普段からするとありえないことなのだから。

「畏まりました」

 時を止める、というのは並大抵のことではない。時を止めつつ動かなければならない今夜はいつもの力は出せないだろう、と彼女は考えていた。
 もちろん、表情には一切出さない。

「満月を奪うなんてなめたことをしてくれる。……ふふふっ、どうしてくれようか」
「殺さない程度が後腐れも無くてよろしいかと」

 それと、声にも。

 紅き館の吸血姫とメイド。
 二人は、夜を止める。  





「幽々子様、急ぎましょう! 早くしないと夜が明けてしまいますよ」

 剣士兼庭師の魂魄妖夢は元気だ。いつも元気なのだが、今日はそれに輪がかかっていた。

「少しは落ち着きなさい妖夢。ほら、月も綺麗よ」
「あんな変な月を見て綺麗なんて言わないでください!」

 ぼろくそに言われたのが少しばかりショックで、信頼を得ようと少しばかり躍起になっていた。
 だから、彼女は気づいていない。
 そんなに急がなくても、夜はまだ明けないということに。
 夜が、敬愛するお嬢様によって殺されていることに。

「今夜中に満月を取り返します! ほら、ぼんやりしてないで行きましょう!」
「……一人で来た方が良かったかしら」

 白玉楼の姫君と庭師。
 二人は、夜を殺す。








探せ 探せ

加護の中の姫を

いついつ出会う

明けずの晩に

凍った時が動いた

動かしたのはだぁれ



永夜抄発売直後に書いても微妙なのに、とかいう小話。
確か何かを見て書きたくなったはずなんですがさて。