こんにちは。ええと、どちら様でしょうか?
え? 凄い理容師が格安で切ってくれるって聞いてきたって?
……こほん。ようこそいらっしゃいましたお客様。理容師の小悪魔と申します。
随分と妙な源氏名だって? そうでもないですよ、私は悪魔ですからね。
まあまあ、そう慌てなくても大丈夫ですよ。こちとら商売人、お客様相手に粗相なんて致しません。
こう見えても腕には自信あるんですよ。こう見えてもお兄さんよりは随分長生きです、数十年のキャリアは伊達じゃありません。
はいはい、一名様ご案内〜。
――ちょきちょき、ちょきちょき。
どうしてこんなことやってるのかって? そうですね、やっぱり趣味でしょうか。普段は奉公の身でしてね、色々気苦労も多くて。だからお代は安くて良いんですよ。
――ちょきちょき、ちょきちょき。
それにしてもお兄さん、とても体力ありそうですねー。頼りにされてるんじゃないですか?
――ちょきちょき、ちょきちょき。
そんなことないって? いえいえ、私の目は確かですよ。……もう何百、何千という男の方を見てきたんですもの。そんな私が、ねえ?
――ちょきちょき、ちょきちょき。
あらあら、動いたら危ないですよ。もう少しちゃんと固定しちゃいますねー、えい。
――ちょきちょき、ちょきちょき。
そういえばお代の方、言ってませんでしたね。そんな青ざめた顔しなくても大丈夫ですよ、命ごといただくほど悪い子にはなれませんから。らしくないですよね、ホントに。
――ちょきちょき、ちょきちょき。
若さと瑞々しさに溢れたあなたの精気を少しばかり。何日か疲れて動けなくなると思いますけど、大丈夫。ちゃーんと村には帰してあげます。
――ちょきちょき、ちょきちょき。
内緒ですよ? つまみ食いしちゃダメだって、メイド長にきつく言われてるんですから。
――ちょきちょき、ちょきちょき。
最近は忙しくて、内緒で人攫いする暇も無くなっちゃって。こっそり噂を振りまいて、誰かが引っかかるのを待つ毎日です。
――ちょきちょき、ちょきん。
これで完成……うん、上出来。精気をもらうだけとは言っても、やっぱりかっこいい人の方がいいですもんね。
くすくす、くすくすくす。
イッツ小話。元々web拍手に置いてたものなので尺が無いのは良いんですが、一つ二つ捻ろうよ私……。
実は今の今まで理容室と美容室の違いは知りませんでした。
なのでたまたま正しい使い方をしてるだけです。ラッキー。