「第2回最萌トーナメント……ねぇ」
「組み合わせによると最初の試合がおまえとパチュリーみたいだな」
「……みたいね」
突然押しかけてきた魔理沙が突然私に突き付けてきたモノ。それはとあるイベントの開催の告知とそのパンフレット。
「それにしても第1回の再現とはな。この組み合わせ、実は作為的なものじゃないのか?」
「私に言われても知るわけ無いでしょ? それに、こんなの私には関係ないわ」
パンフレットを魔理沙に投げ渡す。ひらひらと舞うパンフレットに目もくれず、魔理沙は口の端を吊り上げて。
「またまた。負けた時あんなに悔しがってたくせに。それとも何か、自分では隠し通せてたつもりだったか?」
例えようも無く楽しそうに、とんでもないことをサラッと言ってのけた。
「…………!!」
火が出ているような気がするほど顔が熱い。恥ずかしい。今すぐここから逃げ出してしまいたいくらい。
隠し通していたつもりだった。私の家に寄って来るのなんて魔理沙くらい。その魔理沙は何も言わなかったし、何の変化も見せなかったから。
それに、私は感情のコントロールに自信があった。まあ、その自信は魔理沙から見れば滑稽なものだったのだろうけど。
「物事にはタイミングってものがあるんだぜアリス。……っくく、ビックリしただろ?」
お腹を押さえて苦しそうに笑いを噛み殺している魔理沙を見ても、怒ろうという気にはなれなかった。何故だか分からないけど、ちょっぴり嬉しい気さえした。
「まさかバレバレだったとはね……。そんなに分かりやすかった?」
「おまえの顔なんて飽きるほど見てるからな。ちょっとでも変わってれば嫌でも分かるぜ」
とうとう大笑いを始めた魔理沙を眺めながら、私は苦笑するしかなかった。
「……で。わざわざ笑いに来たわけじゃないでしょ? 何の用よ」
一頻り笑ってすっきりしたらしい魔理沙に、わざと声を尖らせて言う。大笑いされたのはやっぱり悔しい。
「む、さすがはアリス。割と冷静だな」
「伊達にあんたの顔長く見てないわよ」
「そりゃそうだ」
顔を見合わせて、お互いにくすりと笑う。
「実はな、さっき霊夢の所に行ってたんだよ」
「?」
「私たちに出来るのは神頼みくらいなイベントだからな。お守り貰ってきた」
そう言って、魔理沙は「必勝祈願」と書かれたお守りを見せてくれる。何の変哲も無い普通のもの。魔理沙がわざわざ貰いに行くにしてはちょっと普通すぎる気がする。
「霧雨魔理沙が神頼み? 珍しいこともあるものね」
それが私の抱いた率直な感想。いくら自分たちに何も出来ないとはいえ、神頼みなんてする人間とは思えない。
「あー、それから……」
「何よ?」
「これやるよ」
突然投げつけてきた何かを受け取る。手の中を見てみると、それは――
「……お守り?」
魔理沙が持っているものと同じお守り。常識的に考えれば二つ貰ってきた、ということになる。
「魔理沙? これって――」
「ああ、霊夢のヤツがな、どうせならいっぱい持って行けって。いっぱいあれば効果倍増だって言ってたけど、余ってるから押し付けたかっただけだろうな」
「……そうね」
その光景を思い浮かべてみる。確かに霊夢なら言いそうなこと。でも――
「魔理沙」
「ん?」
「ありがとう」
自分でも驚くほど、自然に言えたと思う。鏡が無いから確証は無いけれど、きっと今の私はとびきりの笑顔。
「……たくさんはいらないからな。どうせパンフも持って来るつもりだったからついでだぜ」
急に帽子を目深にかぶりなおしてしまったから魔理沙の顔を見ることは出来ないけど、想像は容易。
魔理沙が私のことを分かっているのと同じくらい、私は魔理沙のことを分かっているから。これは「自信」じゃない。「確信」を持って言い切れる。
「お茶でも飲んでいく? 実は極上品が手に入ったのよ」
これは嘘。極上品どころか、お茶そのものを切らしている。
「いや、今ちょっと忙しいからな。また今度にするぜ」
「そう。それは残念ね」
ほら。私は魔理沙のこと、よく分かってる。
魔理沙が帰ったのを確認して、私はたまらずくすくすと笑い出す。何故って、
「魔理沙。こんなことしておいて押し付けられた、はないわ」
一見新品のお守り。でも、注意して見てみれば紐が解かれ、結び直されているのが分かる。
魔理沙は確かに器用だ。でも、人形繰りで私に及ばないように、ナイフ投げで咲夜に及ばないように。お守りの扱いで霊夢に及ぶはずが無い。
「さて、何が仕込んであることやら」
慎重に紐を解き、中身を取り出す。中には紙が二つ。一つはもともと入っていたもの。そして、もう一つは――
『準々決勝、一緒にやれたらいいな』
面と向かって気持ちを伝えるのが苦手な魔理沙の、これ以上無い激励の言葉だった。
「……ふう。思ったより大変だったわね」
何とか元通りに紐を結び、私はため息をついた。
このお守りは、きっと魔理沙が無理矢理持って来たもの。いくら霊夢でも、巫女である以上同じお守りをいくつも渡すような真似はしないと思う。霊夢に確認する気なんてないから、本当のことは分からないのだけれど。
「物事にはタイミングってものがあるんだぜ、だったわね魔理沙。ふふふ、いつ言ってやろうかしら」
その時を思うだけでわくわくしてくる。魔理沙が慌てふためく様が目の前に浮かんでくる。
「でも、今はその時じゃない」
すぐに頭を切り替える。魔理沙は神頼みしか出来ないと言ったけど、何か出来ることを探さなくてはならない。準々決勝まで勝ち上がるには相当厳しい面子の中を切り抜けなければならないし、1回戦のパチュリーは私自身にとっても因縁の相手。
「さてと。私には何が出来るのかしらね――」
床に落ちたままだったパンフレットを拾い、私は思案を巡らす。
今夜は、眠れない夜になりそうだ。
アリス支援というよりは詠唱組支援になっているような気がしたりしなかったり。アリス頑張れー。
書いた人:木村圭
私の初東方SSは最萌支援なのでした。
今思えば、この後を書かなかったのは結構な失敗ではなかろーか。